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金子ケニー選手による『SUPジャパンカップ2021in茅ヶ崎』の振り返りまとめ(後編)

先日の『SUPジャパンカップ2021in茅ヶ崎』について、日本を代表するレジェンドパドラーの金子ケニー選手が、自身のInstagramにて、レースの振り返りを配信しており、その要点を後学のためにまとめています。

本記事は後編として、動画内で語られた、アマチュアパドラーへのアドバイス的な内容についてまとめています。

ジャパンカップに対しての話は、前編にまとめていますので、良ければそちらもご覧ください。

金子ケニー選手による『SUPジャパンカップ2021in茅ヶ崎』の振り返りまとめ(前編)

『SUPジャパンカップ2021in茅ヶ崎』の振り返りまとめ(後編)

アマチュアレーサーのボード選びについて

今までのSUP業界や営業の仕方、セールスしている人達の影響もあると思うが、エリート中のエリートを目指すのでなければ、細すぎるボードを選ぶ必要は無いと考えている。

例えば、24インチと27インチで、どちらを買おうか迷っているのなら、絶対に幅が広くて安定している27インチを選んだ方が良いと思う。

レース会場でも22インチとか21.5インチの細いボードに乗る『攻めている人』を結構見かけるが、僕でも、新しい21インチボードは慣れるまで落ちまくるくらい難しい。プロレベルや、ものすごく速くなりたい人で、練習に多くの時間を割けるのなら、そのような細いボードを選択しても良いが、週3回以上練習機会を作れないのであれば、乗らなくて良いと思う。

例えば、フラットコンディションを一人で漕ぐのであれば、誰でも細いボードに乗ることができるが、レースでは水面がどんなにフラットでも、引き波などでぐちゃぐちゃになるので、そのような場面で安定して漕げないボードは選択しない方が良い。もしくは、そのような場面で安定して漕げる程練習できないのであれば。

安定したボードを選択する一つの目安として、体重65kg以上の人は、24インチ以上のハードボードを選択するのが適切だと思う。

ボードの種類については、オールラウンドボードを選択するべき。フラットボードは、フラットコンディションのレースで先頭を引っ張れる超エリート選手なら良いが、それ以外の99%の人は、フラットじゃないコンディションを漕がなければいけないので、乗る機会がない。

ボードを自転車に例えると、フラットボードはトライアスロンのTTバイクのようなもので、舗装路をただ真っすぐに進むためのもの。引き波がある水面は、道に例えると未舗装の凸凹道なので、そんなところをTTバイクで走るのが難しいように、そんな水面をフラットボードで進むのは難しい。逆に、オールラウンドボードはマウンテンバイクみたいなもので、荒れた道でも乗りやすい。

今回の茅ヶ崎のレースだと未舗装路どころか山道とかダウンヒルのようなものだったので、フラットボードや細いオールラウンドボードはものすごく難易度が高いく、皆さんが経験したように漕ぐどころか立てないレースになる。

結局SUPは上手な人でも時速8~10km程度しか出ないので、例えば不安定な速いボードと安定した遅いボードで1km漕ぐとしたら、1回でも落水したら後者の方が絶対に速い。

不必要に細いボードだと、バランスを取ろうとして手先で漕いだりするが、足元さえしっかりしていればがっつり漕げるということなので、自分の実力に合わせて考えておくべき。

僕だったら、24インチの安定したオールラウンドボードを選んで、それをフラットコンディションでも走らせられる練習をすると思う。

もちろん、フラットコンディションでは、フラットボード程気持ちよく進まないかもしれないが、どんな状況になるか分からないレースを考えるとそっちの方が近道だし、何よりどんな場所でも漕げるのが重要。

インフレータブルSUPで意識することについて

基本的には考え方はハードボード変わらず、どうやってボードを水面に押さえつけるかということ。

サーフィンをしている人は分かると思うが、ボードを加速させるときは、水に押し付けられたボードの反発力(浮力)を推進力に繋げる。

強いていえば、インフレータブルはハードボードよりもたわみやすいので、より踏ん張って水に押し付けることを意識した方が良い。

パドルの長さについて

身長+15cmと昔からよく言われているが、それは長すぎると思う。

僕の場合は、ダグアウトに乗るときで+3~4cmになるようにカットしているが、腰を10cmくらい落とすので、漕いでいる姿勢を基準に考えると、+7~8cmくらいになる。ただし、腰を10cm落とす姿勢を維持することは難しいので、一般の人が+3~4cmにすると、腰を落とせずに曲げすぎて痛めてしまうため、おすすめはできない。

一般の人に薦める目安としては、+6cmから長くても+10cmくらいで、パドルブレードが入水して力が入る瞬間に、上の手がおでこと鼻の間くらいの高さにくるように調整すること。逆におでこより高いと、肩に負荷がかかるので、肩を壊してしまうかもしれない。

2pcパドルを使って色々試して、おでこより上になっていないかチェックしてみると良い。

肩や腰の痛みについて

パドルが長過ぎると、肩を痛めやすい。また、上から振り下ろしたり、下の手を引くような漕ぎ方をすると、腕や腰、背中を痛めると思う。

基本姿勢としては、胸を張って肩を落とすこと。

漕ぎ方としては、水に差したパドルに腹筋を使って寄りかかり、体重を乗せる。その後は、前に倒れて出ている上体をひねり戻すイメージで、背中を使ってパドルを動かす。寄りかかるときもひねり戻すときも、腕の力は使わない。

グリップについては、強く握ると前腕に力が入り、連動して腕の力を使ってしまいがちになるので注意する必要がある。

僕は、上のグリップは指をかけず手のひらを当てるだけで、下のグリップは中指薬指小指の3本がかかっているだけ。そうやって握りこまずに指をリラックスさせることで、腕の力を使わないようにし、体でねじり込んでいる。

このようなテクニックやキャッチ感覚も必要だが、漕ぐために一番大事なことは、楽しむこと。

僕自身、コロナ前は年間20試合、海外遠征10回くらいしていたが、楽しくないとできないことだと思っている。

キャッチの感覚について

言葉で伝えることが難しいが、感覚としては、生のコンクリートやヘドロにパドルを突っ込んだイメージ。それくらいパドルがロックされて、全ての力をそこに対して使えるような感覚。

逆にキャッチできていないときは、氷の上を歩こうとしている感覚。

風の予測について

現状の風がどの程度なのかよりも、今後どういったコンディションになる可能性があるかを確認した方が良い。

僕も、ロングパドルやレース前には、4つくらいの気象情報サイトをチェックして予測を立てている。

一番手っ取り早いのは、WindyとYahoo天気。

ただし、Yahooは、風速4m/sと書かれていても、実際には8m/sくらい吹くときがあるので、基本的に1.5~2倍程度を見積もって、例えばYahooで5m/sと書かれていれば、結構風が吹くんだなと思っていた方が良い。

今回のジャパンカップでも、予報では13時時点で5m/sの南西風だったが、実際には10m/s以上吹いていた。

特に冬の湘南は、北東の風で流される事故が多いので、要注意。

朝の湘南で北東風が吹くと、8m/sは吹いている感覚がある。

Windy⇒https://www.windy.com/?34.900,133.814,5,i:pressure

Tahoo天気⇒https://weather.yahoo.co.jp/weather/wind/

ハードコンディションでのスタートについて

スタートホーンが鳴ったからといって、何も考えずに海に突っ込んでいくのは間違いなので、絶対にやってはいけない。

海にはうねりがあって、そのセット間隔を考えてない人にありがちだが、波が目の前で割れる瞬間に突っ込むと、プロ選手でも絶対に波を越えられないと知っておくこと。

一番いいのは、波が割れて白く広がったふかふかなところを目掛けて、割れた波の背中に走りこむこと。

また、スタートで並んだ隣の選手が、どちら側を漕いでスタートのかを把握することも重要。

スタートでパドルが重なるとまともに漕げないので、知らない選手でも声をかけてどちらを漕ぐのかを確認し、重なるようであれば立ち位置を入れ替わってもらうこと。僕も重なるようなら、絶対に並びを変えてもらうように心がけている。

そうすることで、ファーストパドルから最初の数ストロークは快適に漕げるし、誰かに邪魔されたなどということを避けられる。

それと今回のような海のレースのポイントとしては、リップカレント(離岸流)を探すこと。 リップカレントは、波が割れた横で沖に戻る流れなので、スタート後に流れにのることができ、レース運びが有利になる。

リップカレント(離岸流)⇒https://jla-lifesaving.or.jp/watersafety/ripcurrent/

荒れた横波への対応について

経験でしかないところもあるが、普段から攻めた細いボードにのるのではなく、自信を持ってどんなコンディションでも立てるボードに乗ることが大事。

また、下半身を意識して、とにかく重心を低くすることも重要。

例えば、今回のように荒れたコンディションで立てなくなると膝立ちになると思うが、それは、重心を低くすることでボードが安定するから。

とはいえ、膝立ちや座って漕ぐとレースでは反則なので、立った状態でもできるだけ低い姿勢、スクワットしているような体勢で漕げるように、下半身を鍛えるのが良い。

大きい波と小さい波のそれぞれの乗り方について

うねりには、グランドスウェルとウィンドスウェルの2種類あるが、今回の茅ヶ崎はどちらのうねりもある状況だった。

ウィンドスウェルは風波のことで、波長が短いので、SUPでも流れに沿って乗ることができる。

沖のグランドスウェルは、波長が長いので、ウィンドスウェルのように乗ろうとしても後ろに置き去りされる。グランドスウェルは、それ自体に乗ろうとするのではなく、うねりの背中を下るイメージで漕ぐと良い。

僕は実際に、今回の沖の横レグで、この2つを上手く使ってうねりに乗ることができた。

アップウィンドの時も同じように、グランドスウェルに乗ることができるが、よく間違うこととして、うねりの上りで頑張るのではなく、うねりの背中を下るときにダッシュを入れること。

うねりの見極めや、グランドスウェルの乗り方は難しいので、経験して練習しないとできるようにならない。

良い練習方法はOCに乗ること。カヌーはバランスを取らなくていい分、うねりへの対応ができるようになる。もしうねりを使いたいなら、カヌーは一番の近道だと思うので、おすすめ。

レースで辛いときに意識することについて

今回は田口選手とずっと競っていたが、一番辛かったのは、本部前に戻る際のサイドレグだった。

練習で速い人はどこにでもいて、僕自身も世界チャンピオンに2回輝いたリンコン・デュースに練習で負けることは1回も無かったが、レースで負けることは結構あった。その差が、辛い感情のシャットアウトだと思っていて、彼は、誰よりも辛さに耐えて忘れることができていた。

どのスポーツでも辛い瞬間があるが、チャンピオンになるためには、『辛い感情』をシャットアウトしなければならない。

水分補給について

今までは、レース中に補給をよくとっていたが、90分以内のレースだと意味がないと考え始めた。

ハイドレーションは肩の可動域の制限や落水時にホースがまとわりついたり、スタート後に水漏れしていたりなど、ライアビリティ(不安要素)が増えてしまう。

レースの不安要素は一つでも取り除きたいので、ハイドレーションを背負わなくてもよいように、普段の練習中から水を持たずに60~90分漕げるような体を作っている。

ただこれは自分の感覚なので、皆さんにはおすすめしないし、脱水の危険もあるので、やるなら徐々に鳴らす必要がある。

あと、うねりに合わせて漕いでいるときに、止まって口にホースを入れてまたパドルを握る動作はすごいロスになる。

僕としては、接戦になるレースだと水を補給すること自体が自分に逃げ道を作っているように感じるので、12~14kmくらいのレースの場合は、ハイドレーションを背負わないようにしている。

呼吸の意識について

漕ぎ方やテクニックは、反復練習で無意識でもできるようにすることで、レース中は、水面の状況や周りの選手などに意識を割き、戦略に集中することができる。

その中で唯一、常に意識していることが呼吸。

理想は力を入れるときに強く吐いて、戻す動作で吸うこと。ただし、どちらも意識することは難しいので、吐くときだけ意識できていれば、吸うことは体が勝手にやってくれる。

漕ぐリズムやうねりに乗るリズムも呼吸で作るので、呼吸は重要。

先頭で引っ張かドラフティングで様子を見るか

僕は、ずっとドラフティングをしていると退屈して自分のコースを漕いでしまうタイプで、先頭を引っ張る方が好き。

レースで先頭を引っ張るためには、それだけの練習が必要で、またそれによって引っ張れる自信もなければならない。

多分これからは、練習時間をそれほど取ることができないので、ほかの選手やコンディションをよく見てスマートにレースをしたいと思っている。

身体バランスの左右差について

左右のバランスが悪い人は多い。

自分の場合は、右利きだから右足は踏ん張れるが、左を漕ぐときも右を踏ん張ってボードが走らないことがある。

改善策として、普段から左足を支点にして生活を送るように意識している。

SUPで有効な筋トレについて

SUPは3kmでも6kmでも持久系の競技なので、重いウェイトを扱う大きな筋肉ではなく、きつい状態を耐えられる筋持久力が必要。

僕自身あまりウェイトトレーニングをやらないが、強いて言えば、プランクと懸垂、腕立て伏せの3つ。

筋肥大すると、乳酸が溜まりやすくなったりバランスが取りにくくなる。

バランスボールでのトレーニングについて

今はあまりやらないが、SUPを始めたころに取り組んだのが、ボールの上に立ってスクワットや、飛び乗って立つことをトレーニングとしてやっていた。

何度が高いが、 スクワットが一番効果的だと思う。

慣れてきたらその上でパドルを振ったり、漕ぐ体勢を作って鏡でチェックしたりするのが良いと思う。

社会人パドラーの週2日でできる効果的な練習方法について

練習が週2日だったら、1日は60~120分を呼吸やテクニックを意識して止まらずに漕ぎ続けるロングパドル。もう一日はインターバルが良いと思う。

おすすめのインターバルとしては、1分レースペース1分レスト(6割くらいの漕ぎ)を30回、6分レースペース2分レスト(6割くらいの漕ぎ)を7~8セット、15分レースペース5分レスト(6割くらいの漕ぎ)を6セット。この3種類を毎週変えながらやる。

1分6分15分どれもレースペースだが、それぞれの時間で出し切れる強度ですることが大切。

子どもの練習方法について

小学生なら、とにかくボードに乗って、ターンや遊びを通してスキルを楽しく磨くこと。楽しくないと続かないので、ゲームやドリル、ツーリングなどの練習じゃない部分で、楽しく漕ぐ環境を作ることが重要。

中高生になって本格的に練習をしたいとなったら、目的を持ったら練習を始めたらいいと思う。

KOKUA FLY PROの納期について

最初の入荷分で3~4月頃の予定。

KOKUAで12.6フィートのハードボードを出す予定について

今のところその予定していない。

もともと12.6フィートは、SUPレースが始まった2009年頃に、12.6フィートまでのフォーム(ボードの中の発泡スチロールみたいなもの)しか無かったためで、現在長いフォームが作られるようになってからは、SUPをより速く楽しくするために14フィートがスタンダードになってきている。

12.6フィートはボードスキルを学ぶ上ではいいが、そういった理由もあって世界的に見ても作らないブランドが増えている中で、恐らく10年後には12.6フィートのレースカテゴリー自体がなくなっていると思う。

KOKUAとしては、12.6フィートの開発に注力するよりは、その分14フィートにリソースを注ぎ込んで、如何に良いボードを作るかにフォーカスしている。

漕ぐことの意味について

SUPもOCも大好きで、漕いでいると落ち着く。

パドルを使って水の上をすべる感覚や、波に乗自由自在に乗ることは元々人間がやっていたことなので、第一線を退いても、ライフスタイルとして漕ぎ続けると思う。

僕にとって漕ぐことは、生活の一環、歯を磨くのと同じようなこと。


長かったですが、以上が動画の内容です。

要約する中で、使えなかったニュアンスが幾つもあるので、ぜひ元動画も見てください。

SUP好きなら楽しくなってきますよ!

SUPジャパンカップ2021in茅ヶ崎のまとめはこちら⇒『SUPジャパンカップ2021 in 茅ヶ崎』まとめ(リザルトはまだ)

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