先日の『SUPジャパンカップ2021in茅ヶ崎』について、日本を代表するレジェンドパドラーの金子ケニー選手が、自身のInstagramにて、レースの振り返りを配信しています。
レース自体はかなり荒れたコンディションであったため、出場者の中にはボードの上に立つことができなかった人がいる程タフ&ハードでしたが、そのようなコンディションへの対応などについても、今回の配信で触れられていたので、筆者のSUP勉強も兼ねて文字にまとめておこうと思います。(勝手にやっているのでどこかから怒られたら消します)
あくまで、金子選手が話されている内容を要約したものですので、元動画の文字起こしでないことはご了承ください。
なお元動画は、90近く話されている贅沢な内容で、要約していてかなりの文字数になったため、前後編に分けさせていただきました。
前編となる本記事では、今回のジャパンカップへ金子選手がどう準備しコンディションに対応したかなど実践的な内容をまとめ、後編では、リスナーとの質疑応答で発言された多くのアマチュアパドラーの参考になりそうな内容についてまとめています。
後編はこちら⇒金子ケニー選手による『SUPジャパンカップ2021in茅ヶ崎』の振り返りまとめ(後編)
金子選手の実際の言葉を聞きたい方は、ぜひ一度ご覧になってください。
『SUPジャパンカップ2021in茅ヶ崎』の振り返りまとめ(前編)
コンディションに対応するために意識したことについて
レースの1週間前の予報では、当日は風速20m/s程度になっており、かなり風が吹く想定だった。その後少し落ち着いたが、前日には結構風が吹いており、冬型の気圧配置がバッチリ決まっていたので、当日も荒れるのだと予想していた。
僕自身、選手として第一線で漕いでいた2019年頃は、1日2時間の練習を週6回行い、1週間で12時間漕ぐということを15週間続けてレースに向けて調整していたので、どんなコンディションでも21インチのボードで自信をもって漕げるようにしていたが、今はその頃と比較して10%くらいしか練習できていないので、荒れたコンディションで細いボードに乗ることが難しく、漕ぎ力の差が不安要素だった。
しかし、『生きている』コンディションの海の場合、フラットな水面のレースのようにただ漕ぐだけではなく、経験や事前の準備、気持ちの部分で対応できることがあると考えていたため、対応力で勝負できると考えていた。
荒れたコンディションに対しては、まず覚悟し、横波の中で何を意識して漕ぐか、そもそも立って漕ぐことに如何に自信を持てるかが大切。
そのため、自信を持って立つことのできる安定したボード選択をした。
今回乗っていたボードについて
今回乗っていたボードは、僕がONEを辞める前に共同開発していたダウンウィンドボードで、幅23インチの安定性の高いもの。
ダウンウィンドボードなので、アップウィンドやフラットはめちゃくちゃ遅いが、ダウンウィンドは速いし、何よりも、少ない練習量でも安定して漕げることが一番だったので、このボードを選択した。
このボードはONEで開発したものだが、僕にもデザインの権利があるので、もしかしたらKOKUAとして商品化するかもしれない。ダウンウィンドボードとしてはすごく乗りやすいので、お楽しみに。
フィンの選択について
今回は荒れたコンディションだったので、レース前に大きなフィンに変えていた人が結構多かったと思う。
『横波やうねり、風があるときはフィンを大きくして安定性を高める』ということは、皆が知っているSUPの基礎知識みたいに思われているが、それは間違い。大きなフィンの方が安定するというのは、波に乗ってスピードが出ているときのこと。横波やうねりの中では、ボードが水面の動きに追従しようとしているのに、大きなフィンが水中の動きをとらえてアンカーのように働き、ボードの安定を損なう原因になる。
荒れたコンディションで大切なのは、フィンで対応しようとするのではなく、どんなコンディションでも乗れるボードに、小さめのフィンを装着することが良い選択だと思う。
具体的には、フィンの先が幅広い程アンカーとして働きやすいので、フィンのベース部分は広くても、先が細く小さいものが良い。イメージとしてはサーフィンのフィンのようなもので、KOKUAで言えばWIZARDが良い。FIAは小さすぎて、荒れた水面では安定感が得られにくいと思う。
基本的に、横波やうねりに対しては、膝を曲げてボードでバランスを保つが、フィンがアンカーになりボードが振られてしまうと、それすらできなくなってしまう。フラットコンディションであっても、潮の流れが速いところなどは同じ考え方でフィンを選択することが重要。
レース前のウォーミングアップについて
時期にもよるが、今回は重心を落とすスクワットを、重心が落ちるまで浜でやり続け、その後、コースの1周短かったので、海に出て各レグのうねりなどを確かめた。
ウォーミングアップとしては、静的なストレッチはやらない方がよいので、体を動かしながら可動域を大きくしていくイメージが基本。
僕の場合は、漕ぎながら徐々に動きを大きくしていく。あとは呼吸と道具の確認で十分。
レース運びについて
今回のエントリーが250人もいるので、3分おきスタートということで、うねりや風に加えて、引き波でも水面は荒れると想定していた。
21インチのKOKUA FLY PROなどは、エリート中のエリート向けのレースボードなので、そのような練習ができていない中で23インチを選択したことは先ほど言ったとおりだが、漕ぐこと自体は体に染みついているので、安定したボードでがっつり漕いでコンディションを楽しもうと考えていた。
実際に徐々に風が強まってきたが、3~4周目程の爆風になるとは思っていなかったし、仮にスタート時点であれだけ吹いていたら中止になったと思う。
気づいていない人も多いと思うが、茅ヶ崎みたいな広いビーチの場合、岸に当たったうねりのエネルギーが沖に戻るうねりがある。今回は前日の風やうねりも残っており、5~7秒周期のうねりがビーチに到達していたので、それだけ沖に戻るなうねりのエネルギーがある。その流れに乗って、1stブイまでは行けると思っていた。
正直、田口選手や吉田選手と単純に12kmを競うと勝てる自信があまり無かったが、うねりがあるコンディションは個人的に得意で、今回はすべてのレグにうねりがある状況だったこともあり、戦略で勝負しようと考えていた。
具体的には、スタートから1stブイまでうねりに乗ったら、そこから2ndブイまではダウンウィンドに乗り、折り返して3rdブイまではTバーから跳ね返るバックウォッシュやうねりに乗るプラン。
案の定、スタート後うねりに乗っていたら1stブイに最初に着き、そこからダウンウィンドで7割くらいの漕ぎで2ndブイへ先行できた。
しかし、ボードがピンテールでステップバックターンができなかったため、クロスパドルでターンせざるを得ず、その際、ターンの上手い田口選手にインサイドから抜かれてしまった。
そこからはうねりに乗って追いかけ、またダウンウィンドで追い抜いてということを繰り返していた。
2周目の終わりくらいから風が強まり、ダウンウィンドで差をつけられると思ったが、田口選手のアップウィンドがめちゃくちゃ速くて、僕自身アップウィンドを漕ぎきる力が衰えを実感しつつ、ダウンウィンドボードのロッカーが強すぎてノーズに風をすごい受けるので、アップウィンドで勝負することは厳しいと思い、4周目(最終周)のダウンウィンドで如何に差を広げるかを考えていた。
実際に、4周目の最初は、田口選手が前にいたが、ダウンウィンドのレグで追い抜いてから15m程差をつけることができ、折り返してTバーくらいまではリードすることができた。
しかし、このままでは追い抜かれると考え、敢えて、Tバー近くのバックウォッシュやうねりでぐちゃぐちゃな水面に向けてコース取りをしたが、普通に抜かれて、最後は7秒差、1ウェーブ差で負けてしまった。
レース結果について
2019年までのプロ選手一筋でやっていた頃は、競技や結果が自分の存在意義だったり全てだったので、すごい練習をしながらも、レース前とかはすごく緊張していたし、プレッシャーもものすごく感じていた。
今は第一線ではなくなったので、その頃と比べて10%くらいしか練習できていないにも関わらず、意外に漕げたというか、パフォーマンスが極端に落ちていないことに驚いたと同時に、安定したボードを選択して良かったと思った。
練習していないのに、パフォーマンスが良かった理由を考えてみると、今はお店や仕事をやりながら、『漕ぐこと=楽しむため』にやっているというマインドによるものと、ジャパンカップという思い入れのある大会で、色々なところから参加する若い選手たちと同じスタートラインに立ちたいという純粋な気持ちで参加できたことが、良かったのではないかと思う。
第一線の選手ではないので、今後も特定の大会にピークを合わせるような練習はしないと思うが、好きな大会や、ボード・パドルのテストを兼ねての参加はすると思う。
今回の難易度について
風やうねりもあったが、海なので潮位の変化も重要なポイントで、今回はちょうど大潮だったため、潮が速いと想定しておく必要があった。
そのようなコンディションで250人と一緒に漕がなければいけない状況はとても難しく、国内レースとしては、超上級者向けの難易度だったと思う。
茅ヶ崎は外海ということもあって、内海や湖などの風波がメインのところで普段乗っている方などは、外海ならではのうねりに苦戦していた。特に今回は、西うねり、東うねり、風波、バックウォッシュが入り乱れて、360度から違ううねりがくるコンディションだったので、それらをどう読み、どう使うかで結果が分かれたと思う。
例えば、フラットコンディションなら30秒や1分程度しか違わない漕ぎ力が拮抗した選手でも、うねりを使えるかどうかで、それ以上の差がつく。この差を縮めるためには、とにかくうねりを経験することが重要。
『SUPジャパンカップ2021in茅ヶ崎』を終えて
万全の安全確保がなされている今回のようなレースでなければ、あの荒れたコンディションでは普通は乗らない。乗ったとしてもアップウィンドかダウンウィンドだけで、サイドレグを自主的に漕ぐ人は少ないと思う。
レースの良いところは、一人なら乗れない(乗らない)環境でも、サポートや他の選手がいることでチャレンジすることができ、貴重な経験を積み重ねられるところ。
僕自身も学生の頃ハワイでOCに乗った時に、一緒に行っていた人がアップウィンドで行こうと言い出して、風速15m/sとか波高5mみたいなところを怖くて泣きながら必死についていった。それで、これくらいの海でも死なないんだなとか、漕げるんだなと実感することができ、そのような経験があるからこそ、日本に帰ってからも荒れたコンディションで漕げるようになった。
今回のレースも同じで、参加者の経験値を底上げするようなレースになったと思う。
今回を出場した人は、今後のレースにもその経験を生かしてほしい。
いかがでしたでしょうか。
独学でSUPを練習している筆者としては、ボードやフィンの選択基準だけでも、かなり有益な情報でした。
そして、金子ケニーほどの選手が、21インチのボードに不安があり、実際に23インチの太いボードを選択することや、それでも、うねりを使うことで優勝争いができることは、非常に面白いことだと思います。
荒れた海のレースに対応できれば、ほぼ全てコンディションに対応できると思うので、とにかく経験を積むことが大事ということですが、今回のようなめちゃくちゃハードなコンディションで乗れるのは、運営がしっかりと安全確保しているからだということをお忘れなく。
個人的に練習する際にも、徐々に冒険できる範囲を広げ、安全マージンを取りながら経験を積み重ねようと思います。
後編では、アマチュアレーサーに向けたボード選びや、社会人の具体的な練習方法など、一般の方に向けたアドバイス寄りの発言をまとめます。⇒金子ケニー選手による『SUPジャパンカップ2021in茅ヶ崎』の振り返りまとめ(後編)
ところで、SUPへの情熱が溢れている今回の動画を見ると、すぐにでもSUPに乗りたくなるのは私だけでしょうか。
SUPジャパンカップ2021in茅ヶ崎のまとめはこちら⇒『SUPジャパンカップ2021 in 茅ヶ崎』まとめ(リザルトはまだ)