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APPワールドツアー アリカンテオープン ー 荒木珠里3位&日本勢活躍まとめ ー

現地時間4月30日に行われたAPPワールドツアー2023の初戦の地は、スペイン南東部の街アリカンテ。

日本からは、田口頼選手と荒木珠里選手の2名が参戦しました。

前日のユーロツアーワールドSUPフェスティバルのディスタンスでは、荒木2位、田口4位と、日本勢大健闘の結果でしたが、それに引き続きこの日も熱い戦いを見せてくれました。

このアリカンテSUPオープンの種目はスプリント。ただし、一般的な直線のみで行われるスプリントと違い、90度以上のターンが3か所あるテクニカルのようなコースで行われました。アリカンテオープンはいつもこうですが、どこからがテクニカルなのでしょうか?

しかも1回戦から決勝までで最小4戦、最大5戦となるかなりハードな日程で行われ、流石のトップパドラー達も疲労の色が見て取れました。

結果としては、コナー・バクスターが圧倒的強さを発揮し堂々優勝といういつもの流れでしたが、2位ノイック・ガリア―ドで3位には荒木珠里が入り、見事日本勢が表彰台にのぼりました。

優勝候補の一角と目されていた田口頼は、惜しくも2回戦敗退でした。

海のコンディションとコース戦略

コースはビーチスタートから始まり、沖に向かって1stブイ、浜側に2ndブイ、また沖に向かって最終ブイがあるレイアウトです(上記コースマップは勝手に書いたものなので、実際とは違います)。

映像で見る限りはじめは穏やかに見えますが、徐々に風と波が出てきたようで、最終的にはボードが波間に隠れる程度の波=スネくらいはあったと思われます。

実際、ブイ間の何もなさそうなところでバランスを崩している選手もいますが、とはいえ流石トップ選手たちといったところで、落水する選手はほぼいませんでした。

レース種目はスプリントといいつつも、コースはテクニカル寄りなため、戦略としてもテクニカルレース同様ターンがカギを握るわけですが、中でも今回は特に1stブイの重要度が高い配置です。

SUPレースでは、ブイの内側から差し込んで前の選手を妨害してしまうとペナルティがあるため、基本的には先着順でブイを回るようになります。となれば、多かれ少なかれブイで渋滞することとなるので、最初に回れる者が最も優位になります。

加えて、テクニカルレースよりも距離が短いと思われるので、1stブイでアドバンテージを取れたらゴールまでその差を維持しやすくなるということです。つまりスタートから1stブイまでのスプリントで最も激しい戦いを繰り広げられることとなります。

あと単純にこういうレースはディスタンスよりハラハラ感があって、見ごたえがあります。

レース動画抜粋

田口頼 Round1

田口頼 Round1

Heat4で登場した田口頼は、スタートダッシュに成功し、ニュージーランドのトップ選手で同じスターボードチームであるオーリー・ホートン(23)と横並びで飛び出した。この時点でイギリスのブルー・エワー(21 NSP)は1艇差程度出遅れ、スペインのウナックス・エトチェベリア・アランブルは落水していたため、大きなミスがなければ2位以内確実そうに見えた。

実際に1stブイまで田口とオーリーは横並びで進んだため、内側のオーリー優先でターンをすることとなった。

結果、ターン立ち上がりのダッシュで3~4艇差程度引き離されてしまい、大きなアドバンテージを与えてしまうことに。

結局ラストブイまでこの差をキープし、ゴール手前直線でダッシュを仕掛けた。ゴール直前、オーリーがボードを降りてランに切り替えるタイミングを誤ったため、その間に田口が大きく差を縮めそのまま刺すかに思われたが、何とかオーリーが逃げ切り、田口は敗者側に回った。

荒木珠里 Round1

荒木珠里 Round1

Heat8で登場した荒木朱里は、独特のスタートで先頭に立った。

まずビーチラン後、一度ボードに乗ることで1つ目の波をやり過ごし、2つ目の波までランしなおして再加速。これにより、最も不安定となるスタートを安全にこなし、かつ1stブイに向かって真っすぐにボードを向けたままスタートすることができるのだろう。

一見すると、イヴァン・ド・フルトス・ルイズ(スペイン)がリードしているように見えるが、1stブイに対してかなり内側にノーズが向いてしまっているため、大きなロスをしている。イヴァンの後ろに着けたリナス・カールソン(25 スウェーデン)も同様であり、唯一荒木と同じコースをトレースしているトマス・ラセルダ(ポルトガル)だけが荒木に着けていた。

その後、荒木らしい腰を落とした姿勢でのハイピッチで漕ぎ進め、1stブイをトップでターン。2ndブイに対しても一定のハイピッチで漕ぎ、2位のトマスに4~5艇差をつけることに成功する。結果2ndブイにロープレシャーで入ることができ、1stブイとは逆に左足を後ろにするグーフィースタンスでターンした。

以降もハイピッチを崩さず、一定のリードを保ったまま進めることができていたため、1位通過するかに思われたが、ゴール直前で早くボードを降りてしまう痛恨のミス。再乗艇したが追いつかれ、ゴールまでのビーチランで刺されてしまい、2位でフィニッシュ。荒木は敗者側に回った。

田口頼 Repechage(敗者復活戦)

田口頼 Repechage

Repechage、敗者復活戦のHeat2で再登場した田口頼は、スタートでクラウディオ・ニカとリカルド・ロッシのイタリア勢に挟まれながら先行される苦しい立ち上がりとなった。横波と曳波が入り乱れる難しいコンディションにバランスを崩しつつも、大きく遅れることなく、ニカのトレインの最後尾にぴたりとつく。

1stブイでブルー・エワーが割って入り、ニカ、エワー、ロッシ、田口の順で回るかに思われたが、エワーとロッシがグーフィースタンスでの左回りで大きく減速した隙をつき猛ダッシュ。見事2人の内側を刺し1stブイを2位で抜ける。このターンでの巻き返す感じが田口らしいレース運びで見ていて気持ちいい。

しかし、2ndブイまでの直線はニカ以外横並びで差がつかず、田口は前に躍り出ることができない。そのため2ndブイに横並びで入ることとなり、内側からエワー、ロッシ、田口の順で回ることに。右回りの2ndブイでは、グーフィースタンスのエワーとロッシは回り易く、レギュラースタンスの田口は回り辛い。さらにロッシにボードを小突かれバランスを崩すなどし、最後尾で2ndブイを回った。

ラストブイでも内側を最小半径で回る見事なターンを見せたが、ゴールまでに巻き返すまではいかず、4位でフィニッシュ。ここで敗退となった。

ターンの精度の高さは健在であったが、昨年の世界大会で見られた爆発的なダッシュ力はあまり感じられなかった。回りのレベルが高いこともあるだろうが、左肩のテーピングを見るに、昨年の世界大会で痛めたあと回復しきっていないのか、前日に行われたEUROSUPTOURのディスタンスの影響か。また、それほど難しい海面ではなさそうであったが、幾度かバランスを失いかけた場面があったところにも疑問が残る。今期から移籍し使用しているスターボードに順応しきれていないのか、はたまたこれも怪我によるボディバランスの崩れか。

いずれにせよ、スターボードドリームチームとなった田口頼の活躍は持ち越しとなった。まだ若いので万全の状態での参戦が待たれる。

荒木珠里 Repechage(敗者復活戦)

荒木珠里 Repechage

荒木はRepechage、敗者復活戦の最後であるHeat4で再登場した。

ここでもRound1同様1度ボードから降り、走りなおしてから再乗艇する独特のビーチスタートで危なげなくスタートを切る。

この組は4人全員が完璧なスタートを見せたが、1stブイまでのダッシュにおいて、荒木とクレマン・コルマスが抜きんでた。というかコルマス裸だけどこれいいのか?

1stブイは荒木とコルマスが横並びで、インサイドはコルマスが取ったが、ターンからの立ち上がりでミスが出て荒木が単独首位に躍り出た。

2ndブイまでの映像は荒木の安定した高速ピッチと、それを支える鍛え上げられた脚周りを見られるベストカットです。

トップということもあり、2ndブイで思い切ったテップバックターンで後続を引き離そうと試みるが、ノーズを上げすぎてバランスを崩す。あわや落水かと思われたが、脅威の体幹でリカバリーし、リードを守り切りつつ3rdブイへ漕ぎ進める。

3rdブイも1位通過し、高速ピッチでリードを維持したまま1位でゴールした。Quarterfinal、準々決勝進出となった。

荒木珠里 Quarterfinals(準々決勝)

荒木珠里 Quarterfinals(準々決勝)

Quarterfinals、準々決勝でも荒木は今まで同様、スタートと高速ピッチで1stブイでの優位を図る。内側から2番目のスタート位置も良い材料だ。

ただ、実際にスタートで飛び出したのはイタリアのレナード・ニカ。既に30歳を越え、スポーツ選手として決して若いとはいえないが、イタリア選手権7連覇の実力は本物でスタートから0.5艇身差、1stブイのターン後には2艇身差をつけてトップを走る。

荒木はスタートからトマス・ラセルダと並走しつつも、内側の有利を使い2番手で1stブイを回った。ターンはいたってスムーズ……かに思われたがここで重大アクシデント。

後続のラセルダのノーズが荒木の艇と重なり、それどころか荒木の脚の間に刺さってしまった。

このアクシデントに荒木は脚を抜き、跨いで解決した。レースの場で、かつ水面がぐちゃぐちゃに荒れたブイ周辺でこの芸当ができるのがいかに難しいことかは、アマチュアパドラーなら分かるだろう。

これにより荒木のボードが離れるまでラセルダは加速することができない(無理に加速し接触で前の選手を妨害した場合はペナルティがある)。ほとんど止まったかのように減速したラセルダを荒木は一息に引き離し、先頭のニカに迫る。

2ndブイを回った時点でニカに追いついたが、最終ブイに向けて無理に抜かそうとせず、首を振って後続を確認しつつニカにピタリとつけた。

最終ブイを回り、最終ストレートに入った段階で1.5艇身差でニカがリードしていたが、ここで荒木がニカのトレースをやめダッシュ開始。一方のニカは先頭を走りながらパドリングに疲れが見え、ピッチが上がらない。

1m程度の鼻差で荒木が先に浜につき、そのまま走り抜けて1位通過。勝っても負けても残り2レース。

荒木珠里 Semifinals(準決勝)

荒木珠里 Semifinals(準決勝)

荒木は準決勝にて初めてベーシックなビーチスタートを見せ、序盤から先頭に立ちました。

沖から陸に向けて風が出てきており、スタートから1stブイまでがアップウィンドになっているためか、もしくは準々決勝までのスタートでそれほどアドバンテージを取れなかったためか、はたまた決勝に向けて脚を温存しておくためでしょうか。

いずれにせよスタートが成功したことで、最初から0.5艇身差となり、1stブイをターンし1艇身差をつけるレース展開。

風と波が出てきていることで、浜方向へ向かっては若干のダウンウィンドを利用して体力を温存することができ、かつ、大して速度差が生まれないため差は縮まりません。

代わりに、2ndブイから最終ブイに向かう区間は右斜め前からくるアップウインドになります。これまでの戦いで消耗してきた選手たちは中々にきつそうで、荒木以外の選手はピッチを上げることができていません。唯一、スターボードのクレマン・コルマスがパワーを使ったストロークでゴリゴリ漕ぎ、荒木についてきています。

最終ブイを回って1.5艇身差。ここからゴールまではダウンウィンドなので、差は縮まりません。

大会の最初の方はかなりフラットに見えましたが、今やボードが隠れる程度の波が出ているので、スネくらいありそうです。海峡を渡るようなオーシャンレースを軸に鍛えられている荒木は楽に波を捉え、不必要な力を抜きながら余裕をもってフィニッシュ。決勝へと繋げました。

荒木珠里 Final(決勝)

荒木珠里 Final(決勝)

決勝は、絶対的王者コナー・バクスターを筆頭に、世界王者のノイック・ガリア―ド、そして先ほどの準決勝で2位となったクレマン・コルマスと、スターボードのドリームチームが顔を揃えました。荒木は体格で大きく劣ります。

スタートは準決勝同様ベーシックなビーチスタートでガリア―ドとコルマスとは横並びです。ただし、コナーは長身と長い脚を生かし、遠浅の浜を他の選手よりも長く走り、50cm程度の鼻差のアドバンテージを得ました。

トップのコナーに高速ピッチで食らいつく荒木ですが、コナーはスプリントを得意としているので、一向に差が縮まりません。

1stブイに着く頃には、ガリア―ドが2番手につけ、荒木の内側を取ってターン。そのまま2ndブイまで漕ぎ進めます。

2ndブイで、悠々1位通過のコナーは得意のワンステップバックで軽快にターンし、2位通過のガリア―ドと競った荒木はボード接触により減速してしまいます。

3rdブイから最終ブイへのストレートでは、2位のガリア―ドに3~4艇身差、1位のコナーには6艇身差つけられてしまいます。

最終ブイを回ってもその差を縮めることができず、逆に後ろにいたコルマスに追いつかれてしまいます。

コルマスと横並びで浜に向かいますが、コース取りの優位で荒木が逃げ切り、3位でフィニッシュしました。

やっぱりSUPは面白いし、今後はテクニカルがSUPレース界のスタンダードになっていくのでは?

久しぶりの世界戦中継ということで、とても楽しめました。

日本でもSUPのハイシーズンに入りますし、コロナもそれほど気にしなくてよい社会情勢も相まって、レースイベントが過熱しそうです。

中でも、このレースのようにテクニカルっぽいレースが最も楽しいのではないかと改めて感じました。

なぜなら、ディスタンスよりも選手順位が激しく変動するし、ターン時の落水で一発逆転もあり得る。また、陸から見ることができる範囲で行われるので、応援や見物、撮影、中継がしやすい。そしてなにより、航路を横切らない狭いエリアで完結できるなどといったところで、比較的どこでも行えて、かつ盛り上がるレースなのではないでしょうか。

デメリットとしては、一度に参加できるのがせいぜい8~10人程度で、複数回レースを重ねないといけないので、どう考えても運営が大変な点でしょうか。

楽しそうなので、アマチュアで参加できるテクニカルレースがあれば、参加してみたいと思います。

ちなみに次回のAPPワールドツアーは、5/13に韓国で行われるAPPアジアンチャンピオンシップです。ほかにも参戦する日本人選手がいると思うので、めちゃくちゃ楽しみですね。

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