ブログ

若狭湾SUP漁船衝突死亡事故に見る教訓

亡くなられた方には謹んでお悔やみ申し上げます。

※このブログ記事は、事故やその当人達について誹謗中傷する意思はありません。悲惨な事故から教訓を得るため個人的に整理し、今後同様の事故が起きないよう啓発する目的でまとめるものですので、私見や憶測が入りますがご容赦ください。

2021年9月5日午前10時40分頃、福井県高浜町和田の沖約250メートルの若狭湾で、インストラクターの引率の下、SUPをしていたグループに漁船が衝突し、グループのうちの1人が死亡した事故。

漂流事故が多いですが、生存して救出されるニュースが多いSUPで、痛ましい死亡事故が起きたということで、記憶に新しい方も多いのではないでしょうか。

この度、漁船の船長とインストラクターが業務上過失致死容疑で書類送検されたとニュースで見かけたので、なぜそのような事故が起きたのか、何を気をつければいいのかといったことについて、改めて考えてみようと思います。

事故の経緯と当時の状況

2021年9月5日、午前10時頃から地元業者が行うSUPツアーに6名で参加していた。

この付近は、年間を通してSUPに乗る人が多いが、港が近いこともあって漁船などが行き交うこともある海域。

当日の海は穏やかで見通しも良く、インストラクターの引率で6名は沖に向かった。

午前10時40分頃、250mほど沖で6名が並びインストラクターが写真を撮っていたところ、航行してきた漁船(4.11t)が衝突し、1名が巻き込まれて死亡した。

漁船には船長1人が乗っていたが、気づいたときには人とぶつかっていた、との証言をしている。

なぜ事故が起こったのか

この事故は、一見すると漁船側が全面的に悪いような印象を覚えますが、後日、船長だけでなくインストラクターも業務上過失致死容疑で書類送検されています。

つまり、双方に過失があったのではないか(記事執筆時はあくまで容疑)、という見立てなので、双方に何かしらの原因があったということになります。

事故原因の裏を返せば、事故を未然に防ぐ方法になりますので、そのあたりのことを考察していきます。

漁船側の過失(推測)

漁船側の過失はどう考えても前方不注意でしょう。

霧もなく穏やかな海で、しかも遠洋漁業をするような大型漁船ならいざしらず、小回りがきく小型漁船で7人グループに衝突するまで気が付かなかったのは、前方を見ていなかったほかに理由がないと思います。(あくまで推測ですが)

問題はなぜ前を見ていなかったのかというところですが、そこには全国に共通する課題が隠れています。

特に近海の漁業は高齢化が著しく後継者不足が問題となるほどです。件の漁船が所属する漁協も同じ状況なのはHPから見ることができ、この船長自身も高齢者です。

ここで述べたいのは、何も「自動車事故と同じように高齢者だから事故を起こしやすい」ということではないことを先に断っておきます。

高齢の漁業者は当然昔から漁業をしていた訳ですが、その頃は船以外は同じ海域にいなかったため、航行中に操舵から手を離し漁具の手入れなどを行っていました。場合によっては疲れすぎて居眠りをしていたなどという話しも聞いたことがあります。

この「操舵から手を離して別のことをする」という慣習は依然として続いており、この事故でもその可能性があると私は考えています。(この海域ではありませんが、実際に普段見かけることがある程度には常態化している地域があるのは事実です)

確かに漁船は遅いので、多少目を離しても少し航路がずれる程度で済んでしまうため、今までは特に問題はなかったのだと思います。

しかし、近年のアウトドアブームでサーファーが増えているように、いろいろなマリンスポーツをする人が増えてくると今までは船しかいなかった海域に部外者が入り込むことになり、思いもよらぬところに人がいる状況を作ってしまいます。これが10年20年続いてしまえば海の上に人がいることが常識となるので皆気を付けるのですが、SUP黎明期のような現状では、今回のような事故に発展する可能性が非常に高いです。

そこで漁業者が気を付けなければならないことは、周囲を確認しながら航行するということです。

これは当たり前のことですが、実際にできていない方を見かけるので、漁協などが中心となってより啓発に努めていただきたいですね。

SUP側の過失

では、SUP側の過失はどのようなものでしょうか。また、何か防ぐ方法はなかったのか、考えてみましょう。

今回は、地元事業者が行うSUPツアーであって、インストラクターが引率しているため、6人の参加者についてはSUP初心者という前提で考えていきます。インストラクターの監督不行き届きだったのではないかという見方ですね。

事故当時の海域は穏やかであり、見通しも良かったということなので、スキルレベルが低いであろう複数人の参加者を引率すること自体はそう難しいことでもなかったでしょう。ちなみにSUPに乗ったことがない方に向けて補足しておくと、250m沖というのは陸から目と鼻の先なので、無理に沖に連れて行ったわけではありません。

唯一気がかりなのは、港が近いため「普段から漁船などが行きかうことがある海域」であるということですね。

つまり、SUP側が航路に立ち入った可能性があり、そうでなくても漁船が来るかも知れないと予見できたということです。この事故を起こしたインストラクターは地元事業者とのことなので、尚更現場海域に精通しているはずです。操舵していない漁船がいつものコースを外れている場合でなければ漁船が通る場所かどうかくらいは予見できるはずです。

また、私が不思議なのは、衝突するまで漁船の存在に気づかなかったのかどうか。漁船のいる海域に行ったことがある人なら分かると思うのですが、漁船は結構エンジン音が大きく、遠くにいても気づきやすいものです。衝突まで気づかなかったなどということはあり得ないので、なぜ避けられなかった(もしくは避けなかった)のかというところが問題になってきます。

1つずついきますが、まず、漁船に気づかなかった説。先述したとおり見通しのいい海域でエンジン音を出して航行している漁船に気づかないことはあり得ないとは思いますが、記念撮影中であったことなどから、ほかのことに気を取られて周囲に気を配れていなかったという可能性があります。参加者6人のスキルレベルにもよりますが、真っすぐ進むこともままならない初心者6人だった場合、写真撮影のために並ぶことにも結構な時間を要しそうなので、その間に意識の外から漁船が接近してしまったのかもしれません。この場合、インストラクターの経験やスキルが初心者6人をまとめて引率するレベルにないということになります。(なんせ周りが見えない程引率に手いっぱいということなので)

2つ目、漁船に気づいたが避けられなかった説。これは引率だと結構考えられるケースです。この事故ではツアーを開始して40分程度で事故に逢っています。仮に参加者が初心者だった場合、「行きたい方向に進む」ことができる程度には練習できたのか、ということです。普通のインストラクターであれば数km先で船がこちらを向いて航行しているのを見つけたら安全を取って、あらかじめ避ける指示を出すはずです。ただし、参加者が思うように漕げない場合はその指示通りには進めないので、避けようがないですよね。1人2人なら、ロープを繋いで曳航する手もありますが、6人になるとロープを繋いでいる間に船が接近してしまうのでそれも難しいです。この場合、安全度外視で漕げない参加者をツアーに連れまわしているので、ツアー自体のやり方に問題があったのではないかということになります。

3つ目、漁船に気づいたが避けなかった説。これは論外ですよね。気づいたのなら避けるのが当たり前でしょう。

結局何が言いたかったのか

この事故では、当然、衝突した漁船側に非があります。動力船ですしね。

しかしながら、インストラクター側が万全の状況だったのか、必要な安全対策を取れていたのかという点には疑問が残ります。

手放し航行している漁船がいることは、ずっと昔からのことなので、地元の人と話すと絶対に近づくなと教えられます。それ慣習自体が悪いのは当然として、そうでなくても船がいる海域では周囲に気を配ることが常識です。「SUPだから避けてくれるだろう」などという考えは、目隠しをして横断歩道を渡るようなことなので、絶対にしてはいけません。

また、インストラクターの落ち度も当然あります。漁船に気づかないのは論外だし、船も避けられないようなレベルでツアーをしていても論外です。ただ、参加者はどうだったのでしょうか。安全意識はあったのでしょうか。

例えば、ツアーの前に十分な安全講習をしてくれなかったとして、死を受け入れられますか?

自然を相手にしたアクティビティは、控えめに言っても死と隣り合わせです。

沖で急な荒天になったら、船やジェットスキーが近づいてきたら、SUPがパンクしたら、どうしますか?

「インストラクターがいるから大丈夫」と思っていませんか?

SUPはまだまだ新しいスポーツです。商売になるのをいいことに、大した知識やスキルもなくツアーをする業者もいますし、場合によってはアルバイトの学生がインストラクターをしているケースもあるでしょう。インストラクターは必ずしも頼れる存在ではないことを知っておきましょう。

過去記事で紹介したSUPヨガの漂流事故もインストラクター側の問題であったように思います。【事故アーカイブ】2021.10.9 洋上 SUPヨガ 500m流されSOS

最後の最後、自分の身は自分で守るしかないので、主催者やインストラクターを盲目的に信じるのではなく、自分自身で必要な安全意識を身に着けて楽しいSUPライフを満喫してください。

ご安全に。

-ブログ